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Fiction お話

      慎吾くんの22歳のお誕生日に何かメッセージを...と考えたのですが、いいモチーフを思いつかなかったので 短いお話を書いてみることにしました。 テーマは「誕生日」、モデルは言うまでもありませんね。(笑)


10年後のバースディ Sun 31 Jan 1999

「もうすぐ誕生日だね?」
 1月も半ばを過ぎた土曜日の午後。公園通りを渋谷駅に向かって二人で歩きながら彼女がふと気付いたように言った。 そういえば、来週の日曜日は俺の22歳の誕生日だったっけ。
「プレゼント、何がいい?」
 彼女はそれが聞きたくてこの話題を切り出すタイミングを計っていたみたいだった。
「ん〜、そうだなぁ。」
 ちょっと考えてから言った。
「別にいいよ、気持ちだけで十分。」
 欲しいものは、君。・・・と言いたいところだけど、それじゃあんまりベタ過ぎ。ダサ過ぎ。
「え〜?だって、知り合って初めての誕生日だよ?ちゃんとお祝いしたいもん。」
 彼女がちょっと口を尖らせた。ヤバイ、ここで怒らせてしまってはまずい。
「貰えるもんだったら何でもいいよ。選んでよ、俺のために・・・さ。」
 身長差25cm。彼女が見上げたとき、俺は得意の『好感度120%』のスマイルで微笑んでみた。 下から見上げる笑顔がめちゃくちゃ好き・・・って、昔付き合ってた女の子に言われたことがあるんだ。
「うん、わかった。あんまり高価なものは買えないけど。」
「もちろん。無理はしなくていいからさ。」
「じゃあ、誕生日の日は会えるよね?」
「俺は大丈夫だけど、そっちは?日曜、大丈夫なの?」
「ちゃんと空けてあるよ。ね、遊園地、行かない?後楽園か豊島園。ちょっと寒いけどさ。」
「久しぶりだな〜、遊園地。俺、絶叫マシン、大好きなんだよ〜。冬の遊園地も一味違ってまたいいと思わない? 北風の中で乗るジェットコースターが“通”なんだって!」
 彼女がきゃははと大きな声で笑った。この飾り気のない笑い方に惚れたんだよな。

 渋谷から乗りこんだ山手線の車内で、時間を確かめようと左腕に目をやって腕時計がないことを思い出した。
「ねえ、今、何時?」
「4時20分。今日、喫茶店のバイトでしょ?間に合うの?」
「5時半からだから余裕だよ。腕時計、壊れちゃっててさ。今日は携帯も忘れてきちゃったし、不便、不便。」
「壊れたって?」
「バイトで食器洗おうとして外した時、シンクに落としちゃったんだ。水の中にポッチャン。 そのときは大丈夫だったんだけどさ、安物だし防水じゃなかったから何日かしたら動かなくなっちゃって。」
 そのとき電車は新宿駅の構内に滑り込み、その日、彼女とはそこで別れた。

 誕生日のその日は晴天だった。朝は冷え込んだけれど、太陽が昇るにつれ気温は上がり、 ポカポカと気持ちの良い天気だった。これは俺の日ごろの行いが良いからだな、やっぱり。
 後楽園ゆうえんちでひとしきり遊んでから、夜は彼女のお勧めという銀座の天婦羅屋で食事をした。 誕生日に天婦羅っていうのが、また彼女らしい。普通だったら、イタメシとかフランス料理でしょ、やっぱり。 でも、ま、そういうところが好きなんだけど。
「これが、美味しいの。衣のふわふわってのと中の冷たさのミスマッチがいいのよね。」
 そう言って、彼女がアイスクリームの天婦羅という不思議なメニューをオーダーした。 でも、確かにこれがなかなかイケる代物で、俺はすっかり気に入ってしまった。
 食事が終わってお茶をすすっていると、彼女がおもむろに小さな細長い包みを差し出した。
「お誕生日、おめでとう。」
「ありがと。開けていい?」
 彼女が頷いたのを見て、銀色の包装紙に包まれた箱に掛かっている赤いリボンをほどいた。 中に入っていたのは、SWATCH(スウォッチ)の腕時計。 SWATCHにしては渋いデザインで、いかにも彼女の好みって感じだ。その時計を早速、左腕に着けながら言った。
「買わなくてよかった〜。いい感じ。」
「よかった、気に入ってもらえて。でも、ごめんね、ホントはもっと良いのをプレゼントしたかったんだけど。」
「そんなことないよ、今の俺には十分過ぎるくらい。」
 それでも彼女が申し訳なさそうな顔をしていたから、ふと思いついて言い足した。
「そうだな、あと10年したら、そしたらもうちょっとマシな男になってると思うからさ。 その時はもっと良い時計もらうよ、な。」
「わかった、10年後ね。約束する。」
 彼女がニコッと微笑んだ。



「パパぁ〜、起きてぇ〜!早く遊園地、行こ〜よ〜ぉ!」
 4歳になる息子の恵吾(ケイゴ)の声で目が覚めた。 ベッドの上に這い上がり、俺の上にまたがってぴょんぴょん跳ねている。 折角の土曜日、もうちょっと寝坊したいところだけど、 今日は3人で遊園地に行こうと前から恵吾と約束していたんだった・・・。
「わかった、わかった、今、起きるからさ。重いから降りろよ。」
 ベッドから起きあがって恵吾を抱き上げると、その右手に何か銀色の細長い箱を振り回している。
「な、それ何?」
「ママがね、パパに渡しなさいって。お誕生日おめでとう、って。」
 渡された箱に掛かった赤いリボンをほどいて開けてみると、 中はOMEGA(オメガ)のスピードマスターだった。以前から欲しいと思っていた腕時計。確か20万はするはず・・・。 狐につままれたような父親の顔を、恵吾は意味がわからないまま面白そうに見上げていた。
 寝室を出てキッチンを覗くと、遊園地に行くためのお弁当を用意していた彼女が気配に気づいて振り返った。
「おはよ。良い天気だよ、よかったね。」
「お前さ・・・。」
 言いかけて、何て言おうかとちょっと考えてから続けた。
「10年前の約束、覚えてたんだ?」
「そっちこそ、忘れてたんじゃないの?」
「覚えてるよ、あたり前じゃん。」
 ついさっき夢に見るまで忘れていた、とはさすがに言えなかった。
「お前、俺の欲しがってる時計、よく分かったな。」
 後ろから『あすなろ抱き』しながら、聞いてみた。
「そりゃ、10年一緒に居ればね。あ、大丈夫、ちゃんと私のボーナスで買ったから。」
 腕の中で振り返りながら見上げる顔が可愛くて、思わずキスしたくなって顔を寄せた。
「もぉ〜、恵吾が見てるじゃない。」
「いいじゃん、パパとママが仲良くしてるほうがさ。」
 彼女の唇を塞ぎながら、こりゃ彼女の次の誕生日には何をねだられるだろう・・・という不安が ちょっと頭をよぎった32歳の誕生日の朝だった。

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