好きなものは好きって言っちゃえSpeak Out about SMAP
since 98/07/20  by 真琴 macott@roy.hi-ho.ne.jp
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Fiction
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Baby・Baby(ベィビィ・ベィビィ)  00/08/18

(3、2、1・・・)
―――カチッ
(目覚まし解除、オッケー)

 午前6時。ダブルベッドの2人はまだ熟睡している。 ダブルベッドの横に並んで置かれたベビーベッドをそっと覗き込むと、その中で眠っている赤ちゃんもぐっすり眠っている。 目覚まし時計を元の位置に静かに置いてシンゴは寝室を出た。

 次は台所。ダイニングの椅子の背に掛けてあったピンクのチェックのエプロンを着けて、まずは冷蔵庫チェック。
(おいおい、なーんもないじゃんよーっ)
 冷蔵庫には野菜室にひからびかけたタマネギが1個とジャガイモが3個と万能ねぎが数本。 冷凍庫には冷凍のミックスベジタブル。使えそうなものはそのくらいだった。 炊飯器には夕べから仕掛けてあったから御飯は炊けているし、味噌醤油といった調味料類はある。 田舎の母親が送ってきていた干物もあるからとりあえず朝食はそれでどうにかなりそうだ。
 必要な食材や調味料を冷蔵庫から取り出していたシンゴは思わず声を上げた。
「げっ、マヨネーズ、切れてるじゃん」
 冷蔵庫のポケットに逆さに入っていたマヨネーズはなぜこんなになってまでここに? ・・・というほどほとんど残っていなかった。 シンゴの料理にマヨネーズだけは欠かせない。油の代わりにマヨネーズ!バターの代わりにマヨネーズ! ――これは本当に必要かどうかというより料理歴5年、マヨネーズ好きのシンゴのポリシーみたいなものだった。
(しゃーないな。コンビニ、行ってこよ)
 エプロンを外し、財布と自転車の鍵だけをつかんでシンゴはパタパタと小走りに外へ出た。

 近くのコンビニまで5分ほど自転車を走らせ、マヨネーズと牛乳と卵を半ダースと納豆のパック、 それからついでにトマトを2個買って店を出た。
(野菜売ってるコンビニって便利だねぇ、高いけど。ま、今日は特別、特別・・・)
 とりあえずこれで朝食はクリアできそうだ、 と気分も軽く鼻歌などを歌いながら住宅地の細い道路を自転車を走らせていると急に路地から人影が飛び出してきて、 シンゴは慌てて急ブレーキを掛けた。
「うぉぉ、あぶねーっ」
 シンゴが叫ぶと同時に飛び出してきた人影は素早い身のこなしで自転車を避けたが、 その反動でよろけて後ろに倒れて尻持ちをついた。
「バカヤロっ。どこ見て走ってんだよ」
 反射的にすみませんと言おうとした瞬間、少し擦れた低い男の怒鳴り声に驚いてシンゴは思わず言葉を飲んだ。 尻を擦りながら立ち上がった人影は一瞬少年かと思うような小柄な風体だったが、 よく見るとその黒いストレートヘアにしっかりと整った人目を引く顔立ちはシンゴより歳上っぽかった。
(なんだよ、可愛い顔してヤンキーかよっ)
「なんか言ったか?」
 その青年が大きな黒目がちの眼でじろっとシンゴを睨んだ。
「いえ、何でも・・・。すみません」
 慌てて謝ったシンゴの言葉を無視して青年はパタパタとズボンの泥を手で払い、 転んだはずみに落としたディパックを肩にかけるとさっさと行ってしまった。
(こっちが素直に謝ってやってんのに・・・失礼な奴)
 その青年の華奢な後姿を見送りつつ、時間がないことを思い出してシンゴは慌ててママチャリのペダルを踏み出した。

 部屋に戻ると再度寝室をチェック。ダブルベッドの中のご夫婦はまだ夢の中。 しかし、ベビーベッドの赤ちゃんのほうはごそごそと手足を動かしぐずぐず言い始めていて、今にも泣き出しそうだ。 シンゴは毛布ごとその赤ちゃんを抱き上げてそっと寝室を出た。
「ソファでおねんねしてようなー、マリちゃん」
 しばらく抱いているとまた眠ってしまったマリをオープンキッチンから目の届くリビングのソファに寝かせると、 シンゴは再びエプロンをつけてやっと朝食の支度に取り掛かった。
 慣れた手つきで野菜を切り、味噌汁の出汁を取り、卵をフライパンに流し込み・・・ と手早く作業を進めるシンゴの背後で人の気配がした。
「おはよう、早いね」
「あ、義兄(にい)さん。なんだ、まだ寝てればいいのに」
「いや、そうもいかないんだ。本社で朝一の会議に出なきゃいけないから」
「ふぅん。じゃあもうすぐ朝ご飯できるから先に支度してきてよ」
 そう言いながらシンゴは料理を作る手をフル稼働させて仕上げに掛かった。

「あー、美味いわ、この味噌汁」
 義兄が食卓に並んだ御飯と味噌汁と鯵の干物、そして納豆入りとミックスベジタブル入りの2種類の卵焼きという純和風の朝食に驚いたような顔をし、 味噌汁の椀をひとくちすすってそう言ったのを聞いてシンゴは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「姉(ねえ)ちゃんのより?」
「そういや、朝、味噌汁なんてしばらくお目にかかったことないなぁ。 うちはいつもパンだし、あっちでは外でモーニングとか食ってるしね」
「自分で料理しないの?」
「一人だとやっぱり面倒くさくてね。単身赴任なんてそんなもんさ」
 シンゴの義兄はこの春、福岡の支店に転勤になった。 その義兄と同じ会社に勤める姉は仕事の都合で東京を離れるわけにいかず、やむなく義兄は現在、単身赴任中である。
「で、いつあっちに帰るの?」
「今日、会議が終わったら戻るよ。先週3日も休んだから仕事が溜まってるしね」
 シンゴの姉はコンピュータ関係の仕事をしていて、プロジェクトが山場にかかると帰宅が深夜を過ぎることもままあるらしい。 丁度今はそういう時期らしいが、ようやく1歳になったばかりの娘のマリをそんなに遅くまで預かってくれる施設も無くて、 やむなく義兄が休みを取って赴任先から帰ってきたのだった。
「シンゴくんが来てくれて助かったよ。あいつもあと2週間くらいはこんな調子だろうからマリのことは心配だし・・・」
 育児休暇と称して3日休むのがやっとの義兄に代わってシンゴが子守り兼家政婦として呼ばれたというワケだ。
「で、一体いくらで落札されたの?」
 義兄がシンゴの顔をにやっと笑って見ながら尋ねた。シンゴは恐る恐る右手の手のひらを開いて義兄に向けた。
「5万?2週間で?」
 高すぎると言われるのかとシンゴは一瞬、びくっと肩をすくめたが、その後の義兄の言葉はこうだった。
「ホントにそんなんでいいの?うちに泊まり込みなんだろ?こき使われるぞー」
 丁度パチンコの負けが込んで生活費に窮していたそのときのシンゴにとって5万はとんでもなく有難かったのだが、 義兄の言うようにそれがそんなに美味しいハナシではなかったことをその後思い知ることになるのだった。

「じゃ、行くわ。悪いけどよろしく頼むね」
「うん、大丈夫。ねえちゃん、起こさなくていいの?」
 義兄が会社に出掛けるというのでシンゴは丁度、目を覚ましたマリを抱いて玄関へ見送りに出た。 その時間になってもまだ姉は寝室でぐっすり眠っていた。
「いい、いい。どうせ昼には会社で会えるから。夕べも遅かったからもうちょっと寝かせといてやって」
「わかった。あ、なんだったら俺が代わりにいってきますのキスもらっといてあげてもいいよぉ」
 シンゴが頬を突き出すと、義兄はその頬を冗談っぽく軽くぽんと叩いて、 シンゴの腕の中に収まっていたマリのほっぺにチュっとキスをした。
「勘弁してよ。・・・じゃ、行ってきます」
 義兄が出て行くとシンゴはマリを正面に抱き直した。
「おまえのせいでお出かけのキッス、失敗だよー」
 そう言って軽く睨んだシンゴの顔をマリがきゃっきゃと笑いながら見ていた。

「ねーちゃん、そろそろ起きないとやばいんじゃない?」
「・・・あぁ、シンゴぉ、今何時?」
「9時」
「やばっ」
 姉のミチコが驚いたように一気に目を覚まして上半身をベッドから起こした。 フレックスとはいえそう悠長にはしていられない時間らしい。
「ご飯と味噌汁、出来てるからちゃんと食っていきなよ。食うもん食わないと無理きかないぜ」
 慌てて起き出して洗面所に飛び込んで行った姉の後姿に向かってシンゴが声を掛ける。
「俺、マリを保育園に連れて行ってくるわ。その足でバイト行くから」
「保育園の場所、教えてなかったよね?」
 洗面台に向かったミチコが歯ブラシ片手に振りかえってシンゴに尋ねた。
「あぁ、義兄さんに地図、書いてもらったから大丈夫」
「そこのバッグの中にいるもの入ってるから持っていって。 保育園の先生には今日から弟が送り迎えしますって言ってあるから」
「わかった。ねえちゃん、今日も遅いの?」
「そうねぇ、当分、夜中は過ぎると思うわ。マリのご飯は・・・」
「大丈夫、夕べ、ちゃんと聞いたでしょ?ねえちゃんが書いてくれたメモもあるし。 どーしてもだめだったら携帯に電話するから」
「じゃ、よろしくね」
「おぉ、任せといて」
 シンゴはマリを右手に抱くと、自分の黒いショルダーバッグと姉のトートバッグを左肩に掛けて玄関を出た。

[続く]


中居正広氏お誕生日&慎吾ママデビュー記念〜ってことではじめてみたものの、 実は最初と最後しか考えてないもんで続きはいつなのかは不明。・・・というか、続きはあるのだろうか??(苦笑)
それに今回はできればやるまいと思っていた「実名拝借」をやってしまいました。 だって、他の名前が思い付かなかったし。(^^ゞ


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