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Fiction お話

== お願い ==
できれば「○f(=エフ)5月号」の慎吾クンのグラビアをご覧の上、お読みください!
そのほうがより妄想を広げていただけると思いますので。(笑)・・・って、文章力の無さをそうやって誤魔化すなよ〜。(^^ゞ
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リリ Sat 3 Apr 1999


 わたしは昔から、友達にも親戚にも親にさえも「ちょっと変わってる」と言われる子供だった。
 普通の女の子が好きなおままごととかお人形遊びには、ほとんど興味がなかった。 それよりは、庭の桜の木の枝にぶら下がって揺れている蓑虫やら、玄関のすりガラスの外に張りついたヤモリやらを飽きずに眺めていたり、 日当たりのいい縁側で猫のタマに毛糸だまを投げては、じゃれついてくるタマと遊んだりするのが好きだった。

 みんなから「ちょっと変わってる」と言われるのは、もうすぐ高校を卒業しようという今になってもあまり変わっていない。

 ルーズソックスは、かさばってタンスの引出しがいっぱいになるから好きじゃない。
 制服のスカートは、あまり短かくすると下着が見えないかと気にしなきゃいけないから、ほどほどにしている。
 プリクラは、なかなか気に入った表情にならなくて、何度も何度も撮り直すと一緒にいる友達が呆れちゃうから最近は撮ってない。
 カラオケは・・・歌うのは好きだけど、「フリカラ」だと振りがついていかなくてみんなに爆笑されるから歌うだけにしている。

 友達にはビジュアル系のバンドの追っかけをしている子とか、テニス部でインターハイに出た子とか、 サーファーの彼氏について毎週海に行っている子とか、京大の文学部を目指して必死で勉強している子とか・・・ いろんな子がいるけれど、わたしはそのどれにも彼女たちのように夢中にはなれなかった。
 特にみんなが「恋」とやらに熱を上げる気持ちがよくわからない。クラスの男の子にも面白い奴はいるけれど、 みんなみたいに「付き合いたい」と思ったことはない。 ましてや近所の男子校の男の子とかアイドルタレントにはもっと興味がない。
 でも、彼女たちが好きな男の子の話をしているのを聞くのは好きだ。そういう時は、みんな、目がキラキラしてて素敵だなぁって思うから。 そんなに興味があるわけでもないのにわたしがいつもニコニコして彼女たちの話を聞いているものだから、みんなは、
「リリって変わってるよね。」
 と言いながらも、いろんな話を聞かせてくれるのだ。

 「リリ」っていうのがわたしの名前。 漢字では「梨里」と書くのだけれど、面倒だから特に必要がなければ「リリ」ですませることにしている。
 こんな名前を付けた両親は、わたしに負けず劣らず変わっていると思う。 友達が姓名判断の本でわたしの名前を調べてくれたら、「八方ふさがりの運勢」と書いてあったらしい。 きっとうちの両親は画数のことなんか、まったく考えていなかったに違いない。まったくあの人たちらしくて笑えてしまう。 そんなふうだから、わたしが「変わっている」と言われるのは、この名前にも原因があると信じている。
 この名前のおかげで、小さい頃はからかわれたりしたこともあったけれど、今では結構気に入っている。 みんなにすぐ覚えてもらえるし、生まれてこのかた同じ名前の人に会ったとがないというのが、わたしの自慢のひとつだ。

 わたしが(自分では全く自覚が無いけど)こんな変わった性格になったのには、もうひとつ原因がある。
 それが、4つ年上のお隣のお兄ちゃんの「シンちゃん」だ。
 ママ同士が仲が良くて、お互い一人っ子だったから、シンちゃんとわたしは小さいときからずっと兄妹のようにして育った。 子供の頃、シンちゃんはいつもわたしを連れて日が暮れるまで遊びまわった。 その遊びといったら、たいてい近くの小川でオタマジャクシや蛙を獲ったり、雑木林でカブトムシを探したり、 貯水池でフナを釣ったり・・・。そんな感じだったから、わたしは普通の女の子がする遊びをまともにしたことがなかったのだ。
 うちの両親はずっと共働きだったから、わたしにとってはシンちゃんが「保護者」みたいなものだった。

 シンちゃんだってわたしに言わせればかなり変わっている。
 今、美大の4年生で、大学では洋画を専攻しているが、
「もうちょっと学生の身分で気楽に絵が描きたいから。」
 と言って、英語の単位をわざとひとつ落として、すでに留年が決定している。 大学の教授が気を使って追試をしてくれて、シンちゃんは、
「せっかくだから行かないと悪いよな。」
 と言って追試に出掛けていったくせに、試験問題の解答をわざとひとつずつずらして書いてきたらしい。 その解答は、ずらして書いていなければ全部正解だったらしくて、
「あいつはホントに変わった奴だ。」
 と教授が呆れていた、とシンちゃんの大学の友達が言っていた。
 でも、このことはシンちゃんのママには内緒にしてあげている。その口止め料として、わたしはシンちゃんに焼肉を3回奢らせた。

 シンちゃんは何人かの学校の友達と一緒に小さなロフトを借りていて、そこを共同のアトリエとして使っている。 わたしは、シンちゃんがこのロフトを借りるときに一緒に下見について行き、それ以来、暇があったらそこに出掛けて行った。 友達が教えてくれたガレージセールでわたしが見つけた中古のベージュのソファセットは、その部屋の真ん中にどっかりと鎮座ましまし、 そこはわたしの指定席になった。
 わたしはシンちゃんの妹分でまだ高校生だからということで、部屋代の分担は免除してもらっているが、シンちゃんには、
「その分は労働で払え。」
 と言われている。 だから、わたしはときどき、床掃除をしたり、ママに教わったくるみとレーズン入りのベーグルを焼いて持って行ったり、サイフォンでぽこぽこと珈琲を点ててはみんなにふるまったりする。 わたしの点てた珈琲は美味しいとみんなに評判だ。

 そのアトリエには、シンちゃんの美大の友達以外にもいろんな人が入れ代わり立ち代りやってきた。 絵を描いたり、オブジェを作ったり、お茶を飲んだり、おしゃべりしたり・・・と、 みんなが思い思いのことをしては好きなときに帰っていった。
 ストリートミュージシャンをしてるユウジさんがギターを爪弾いていたり、 ホステスをしているエリコさんが夕方の出勤前にソファで寝息を立てていたり、 ラーメン屋でアルバイトをしているヒロシくんが出前の帰りに立ち寄って一服していたり・・・。
 そんな人たちの中でも、特にわたしのお気に入りはミチさんとルルだ。
  ミチさんは、シンちゃんの友達のカズオミさんの彼女で、古着屋の店員さんをしている。 いつも、ちょっと茶色い髪をポニーテールにして、古着のジーンズに綺麗な色の木綿のシャツやTシャツをラフに着こなしている。 ミチさんはお裁縫が得意で、ときどき自分で縫ったスカートやワンピースを着ていたりする。 アトリエの片隅には黒い旧式の脚踏みミシンが置いてあって、ミチさんはそのミシンでわたしにデニムのバッグを縫ってくれた。
 カズオミさんとミチさんはいつも仲良しで、ミチさんは仕事帰りにカズオミさんを迎えにこのアトリエに寄っていく。 わたしはいつも、2人が帰って行く姿を2階のアトリエの窓から見下ろすことにしている。 シンちゃんには、
「ばーか、覗き見してんじゃねーよっ。」
 と、後ろから頭をパコンッと叩かれるのだけれど、わたしは手をつないで帰っていく2人の姿を見るのが好きなのだ。
 もう一方のお気に入りのルルは、シンちゃんが拾ってきた三毛の仔猫で、6月の雨の日にアトリエの近くの公園を通っていたら、 植え込みの紫陽花の下からミーミー鳴きながらついてきたのだそうだ。
「こいつ、ちっこくて、顔がでかくて、タレ目だろ?リリによく似てるから、ほっとけなくてさぁ。」
 と、シンちゃんはその仔猫をアトリエに連れてきた。
 お皿に入れたミルクをぴちゃぴちゃ舐めるその仔猫を見ながら、
「そうだなぁ、名前・・・。リリの子分だから、ルル。ルルに決定。」
 とシンちゃんが勝手に決めてしまった。まったく失礼な言い草だが、確かにタレ目がわたしに似てなくもない。 アトリエに住み着いたルルは、その日からわたしの子分になった。

 わたしが暇さえあればそのアトリエに入り浸っていたのには理由がある。 友達のように夢中になるものもないし、彼氏もいないけれど、好きなことがないわけじゃない。 ・・・わたしはシンちゃんが絵を描いている姿を見ているのが好きだった。
 シンちゃんは、いつもアトリエの南向きの窓の近くにイーゼルを立てて、キャンバスに向かっていた。 わたしは、キャンバスに向かうシンちゃんの姿が真横より少し斜め後ろの角度から見ることができるように、いつもソファの端っこに座る。 シンちゃんは、たいてい膝に穴のあいたジーンズにTシャツとか綿シャツというようなボロボロの格好をしていて、わたしが、
「もうちょっといい格好しないと彼女できないよ。」
 と、からかっても、
「いーんだよっ。どーせ汚れるんだからこれで十分なのっ。」
 と言って、全く気にする様子がない。シンちゃんは大学の入学式にもジーンズで現れた、とカズオミさんが言っていた。
 アトリエで絵を描くとき、シンちゃんはその小汚い格好の上にグリーンのエプロンをする。 ミチさんに縫ってもらったエプロンだ。 アトリエでシンちゃんが近くに来ると、そのエプロンに染みついた油絵の具の匂いがほんのり漂ってきて、 わたしはその匂いが大好きだった。
 チビのわたしが180cm近くあるシンちゃんの隣に並ぶと、顔を見上げるのがやっとなのだけれど、 ソファに座るとシンちゃんの全身を見ることができる。 肩幅が広くて、手脚が長くて、右斜めから見た顎のラインは鋭角を描いていて、綺麗だなぁといつも思う。 (本人に言うとつけ上がるので絶対に言わないけど。)
 わたしはいつもソファに座って、本を読んだり、学校の課題をしたり、ルルと遊んだりしているのだけれど、 ときどきシンちゃんが絵を描いている後ろ姿をぽけーっと眺める。 あんまり長い間見ていると、シンちゃんが気配に気づいてこっちに振り向き、
「なに見てんだよ?」
 と言って、にこっと笑う。このときの笑顔がわたしは大好きだ。

[その2へ続く]

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